インタビュー特集

「ダンス✖️演劇」コラボレーションから生まれる新たな身体表現の可能性 オドリアイ・須田七瀬さんインタビュー【vol.2】

「ダンスを通して、ひとりひとりの可能性を最大限に活かせる環境を創出したい」。そんな思いから2019年に「オドリアイ」というプロジェクトを設立した、ダンサーの須田七瀬さん。設立翌年から年に一度、一般から公募した参加者が集うダンス公演を開催。詩の朗読や生花のライブパフォーマンスなど、様々なアーティストとコラボレーションしたダンス作品を発表している。また、最近では演劇の舞台での振り付け指導も担い、ダンスを軸とした多様な分野の表現活動を行っている。ダンスと演劇、異なる分野をつなぐ須田さんが探求する「身体表現の可能性」について聞いた。【2回連載の2回目】
(前回の記事→「ダンス✖️演劇」コラボレーションから生まれる新たな身体表現の可能性 オドリアイ・須田七瀬さんインタビュー【vol.1】

──演劇の舞台で振り付けを考えることで、須田さんご自身に新しい発見はありましたか?

「オドリアイ」は私が自主企画として行っているイベントなので「自分のやりたいことを100%やる」ということが私のタスクだと考えています。一方で、昨年振り付けを担当させていただいた「サファリ・P」の舞台は、劇作家・演出家である山口茜さんの「やりたいこと」が先にあります。「私のしたいこと」ではなく、「演出家のしたいこと」に対して自分がどのような提案をできるか。それがタスクになってくるので、その部分の違いはすごく感じました。
「どういう風に見せたいシーンを作っていくか」ということについて、演出家のストライクゾーンを見つけていく作業を重ねていくという感じでしたね。必ずしも自分がいいと思ったものではない時も、もちろんあります。そういった違いを感じる中で、自分自身の中にたくさんの引き出しを持つことが大切だと改めて思いました。
役者の方への言葉がけにしても、ふわっとした言葉ではなく、具体的なイメージを介した言葉でないと意図が伝わらず「それでは、動けません」となってしまいます。演出家や役者の方とやりとりをする中でいっぱい刺激をもらって、その後の自分の作品作りにとても良い影響がありました。

©NAKATANI TOSHIAKI

 

──自分以外の役者やダンサーが演じる舞台を作り上げることは、作品づくりにおける面白さは違ってくるものですか?

私は若い時から作品を作ることが好きで、20代から自分が一人で踊るソロの作品を作り続けています。でも、人が踊るというのは、やはり自分が踊るのとは全然違います。
舞台の振り付けを担当して気付いたんですが、私、「この人、こういうふうにしたら面白いやろな」とか「この人のこういうところ、すごくいいな」というのをキャッチするのが上手いみたいで(笑)。多分、人が好きなんですよね。人間が好きだから、そこが私にとっても舞台の振り付けに参加することの魅力になっています。

自分じゃない人が作品を作り上げてくれることで、ものすごく世界が広がると感じています。想像していたよりも何倍も面白いものが出来上がるっていうのが、人と一緒に作品を作ることの面白さだと思います。立ち姿一つとっても、年長の役者の方の立ち姿と、私の立ち姿は明らかに違うんです。私が出せないものを出せるので、そこはやっぱり敵わない。色々な人たちと作品を作ることで、そういった、人の魅力みたいなものにとても惹きつけられますね。

©NAKATANI TOSHIAKI

 

──須田さんが主催されている「オドリアイ」も、詩の朗読や生花のライブパフォーマンスなど、多様な分野のアーティストとコラボレーションされています。

「オドリアイ」は、「踊りたい人が集まってやりましょう」という趣旨の舞台なんですが、ダンスだけではちょっと寂しいので、異分野のアーティストの方とコラボレーションしています。昨年は詩人の方に詩を書き下ろしてもらい、「重なる/重ねる」というテーマで「言葉と身体の相互作用」に注目し作品を作りました。
私は、時間の経過が見えているようなものが好きなんですよ。例えば、縦糸と横糸を織り上げていく織物は、「織る」という行為による時間の積み重ねが「織物」という存在によって目に見えますよね。あるいは、廃墟のような場所なども「以前はここ人が住んでたんやな」という面影を感じ取って、それまでの時間の経過を感じて、強く心惹かれます。
それは結局、人間もそうだと思うんです。踊るのもいいけれど、立っているだけでも、その人から滲み出てくる人生観がある。そういうのがとても好きで「重なる/重ねる」をテーマにしました。
詩を作ってもらうにあたり、「オドリアイ」の参加者に「『重なる/重ねる』って聞いたら、何を思い浮かべますか?」と質問したんです。それぞれから合計で70個ほどの言葉が答えとして返ってきて、その言葉を元に詩を書いていただきました。
そして、出来た詩を元にして、今度は私がダンスの動きを作っていきました。本番では、詩人の方にも舞台に出てもらい実際に詩を朗読してもらい、同じ舞台でダンサーの人たちが踊りました。

©NAKATANI TOSHIAKI

やっぱり、言葉ってすごい具体的なんですよ。例えば「眩しい」という言葉があったときに、いかにも眩しいような身振りや手振りで表現したのでは、意味がない。言葉にもたれ合わずに、うまく共存したいという思いで、作品を作って行きました。
上演後、観客の方から「詩の作品が面白かった」という感想をたくさんいただきました。やっぱり、言葉と踊り、言葉と体という関係性はとても面白い可能性があるなと改めて感じました。これからも、ただ踊って楽しいだけではない作品を目指したいなと思っています。

 

──演劇を志している学生さんたちに、メッセージをお願いします。

まだ私も、気持ち的には学生の方達と同じくらいのつもりなので(笑)、「ほんまに面白いと思えることがあったら、一緒にがんばろう!」という気持ちです。
今はYoutubeやtiktokでダンスの動画がたくさん上がっていますよね。でも、やっぱりスマホの画面じゃなくて、本当に生の舞台でダンスを見てほしいと思います。ダンスの幅って、もっともっと広い。身体表現って、こんなにも幅広いんだということを知ってもらいたいですね。
ダンスや演劇の舞台を観た時に、「面白かった」という人と、「面白くなかった」という人と、「分からなかった」という人が、必ずいると思うんです。
でも、誰かと擦り合わせる必要はないし、正解って本当に自分の中にしかない。自分が「分からない」と思ったら、その感覚を大事にしてほしいと思います。「『分からない』ということが分かった」というのが、すごく大事なことだと思うんですね。そういう経験を、自分の中の感性を磨くきっかけにしてくれれば嬉しいなと思います。

須田七瀬
オドリアイ代表。1981年京都生まれ。バレエ、ジャズ、コンテンポラリーダンスをメインに舞台やイベントなどで活動中。佐藤知子率いるArt Performance Project 「Amoeba」に、2006年のプロジェクト立ち上げ時から在籍し様々な舞台に出演。ソロ作品の創作にも精力的に取り組み、2020年には東京シアターXでの国際舞台芸術祭に参加。全国から集まったアーティストたちと意見交換しながら、今面白い作品とは何かを追及している。
一方で、なんばグランド花月での「テンダラー単独ライブ」など、吉本お笑いライブへのダンサー出演、振付も担当するなど、芸術性の高いものからエンターテイメント色の強いものまで、活動は多岐にわたる。
また「NPOさをりひろば」とともに、障がいがある方たちへのダンスワークショップを開催。パーカッションとダンスのチームを結成し、関西を中心に野外でのライブイベントや劇場公演などでパフォーマンスをしている。

ダンサー、振付家以外の活動としては、フランクリンメソッド・エデュケーターとして、踊る身体と解剖学を学ぶためのワークショップも定期的に開催している。
2019年に設立した「オドリアイ」は、ダンスを通じて、ひとりひとりの可能性を最大限に活かせる環境づくりを目指し活動している。2020年から年に一度、一般から参加者を募りダンス公演を開催。自身の振付作品の他、様々なジャンルのアーティストとのコラボレーション作品を発表し好評を得ている。2022年「オドリアイ2022」が西京区地域力サポート事業の対象団体となる。2023年11月に京都府立文化芸術会館にて公演開催決定。


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