インタビュー特集

何のために演劇をするのか問い続ける「共通舞台」 2023年2月、『ハムレット』をE9で上演

「学生の街」京都には多くの学生演劇サークルや劇団が存在し、個性が光る舞台表現に取り組んでいます。京都を代表するサブカルチャーである学生演劇の世界と、そこで活躍する学生たちにスポットを当て、知られざる学生演劇の魅力に迫る「学生演劇応援団」のインタビュー特集。第6回は、「共通舞台」の村上太基さん、鈴木嵩久さんの2人にお話を伺いました。
2016年に発足した「共通舞台」は、村上さんと鈴木さんの2人からなる劇団です。今年9月に行われた京都学生演劇祭では、審査員賞、TOWA賞、KYOTO EXPERIMENT賞を獲得。さらに、京都府文化団体等活動継続支援事業にも選出され、2023年2月には「THEATRE E9 KYOTO」での公演が決まっています。「共通舞台」が目指す演劇のあり方について、村上さんと鈴木さんが話してくれました。

──「共通舞台」を発足するに至った経緯を教えてください。

村上:2016年に「sono temple」という名義で、私が個人で立ち上げた劇団が「共通舞台」の前身です。演劇好きな母と、中学・高校で演劇部に所属し演出を担当していた姉の楽しそうな姿に影響を受けて、「演出」というものにずっと憧れていました。
元々、私と鈴木は同じ劇団に所属していたのですが、1回生で演出を任せてもらうことは難しいと考え、自分で演出ができる劇団を立ち上げることにしました。

鈴木:私は2017年頃から、俳優として「sono temple」に関わるようになりました。2018年に「共通舞台」という名前に変わり、2020年ごろから正式にメンバーとして参加しました。それからずっと「共通舞台」は村上と私の2人で、公演ごとに俳優やスタッフを集めています。

2021年京都学⽣演劇祭 ZOKEI「線路の間の花々は旅の迷い⾵に揺れて」

──発足当初は、どんな公演を行なっていたのですか?

村上:一番最初は、メディアショップギャラリーで公演を行いました。古本屋さんに出品してもらい、古本を買ったお客さんに、本の中の好きなページを1つ選んでもらうんです。そのページを題材に、その場で2分くらいで流れを考え、役を割り振り、5分くらいの即興劇を行いました。文学作品だけでなく、化学書の実験方法のページで即興劇をしたこともあります。即興劇の合間に、俳優が準備してきたモノローグを披露したりもしました。

──お客さんに選んでもらったページをもとにした即興劇とは、実験的でおもしろそうです。一般的な即興劇と違い、とても独創的ですね。現在の「共通舞台」の特徴も教えてください。

村上:今の「共通舞台」の特徴は、公演の作り方にあると思います。「共通舞台」は演劇を準備するとき、まず、参加するメンバーとの演劇観のすり合わせから始めます。何のために演劇をするのか、なぜ俳優をするのか、自分がその役を演じる意味は何なのか、細かく話し合います。その上で自分がしたいことや、脚本の解釈などをディスカッションしながら、一緒に演出を考えていきます。きっかけを与えたり、まとめたりはするけれど、できるだけ「こういう演出でいこう」ということは言わないようにしています。

2022年4月「無言を待ちながら」

──一人ひとりと向き合うということですね。珍しいスタイルですが、何かきっかけがあったのですか?

村上:私が2015年にイギリス留学していたときに、ロンドンで蜷川幸雄さんの『ハムレット』を観に行ったんです。そのときに衝撃を受けて以来、蜷川さんの大ファンになりました。演出がみんなを動かす蜷川さんのやり方に憧れて、私も同じようにしてみた時期がありました。でも、そのときの自分には、ちゃんとコミュニケーションができている実感がありませんでした。それからは、俳優一人ひとりと向き合い、話し合って、俳優から出てくるものを整えるという今のやり方になりました。
それぞれの役割を全うするのは当たり前。その上で、俳優も一緒になって演劇を共同制作していく。演出家として新たな解釈を発見することもあり、とても楽しいです。全てを演出家の言う通りにせず、俳優それぞれの解釈がなんとなくまとまっていくという演劇のあり方は、表現としての豊かさを持っていると思います。

──なるほど。おもしろさやクオリティだけでなく、「豊かさ」に注目しているのは新しい視点ですね。

村上:私自身、幼少の頃から、集団の中で自分の意見が通らなかったり、それぞれの意見が尊重されていないと感じることがよくありました。集団のコミュニケーションが固定化されてしまいがちなことについて、違和感を抱いていました。私は、「この人たちが集まっているから、この色になる」というのが理想だと思います。ある面では、自分の理想とするコミュニケーションを「共通舞台」の演劇によって体現しているのかもしれません。そうやって作った作品を、観ている人にもおもしろいと思ってもらえることを目指してきました。そういう意味では、今回の京都学生演劇祭でようやく形になってきたと思っています。

──鈴木さんは、どうして「共通舞台」に入られたのですか?

鈴木:私は、もともと俳優がしたくて劇団に入りました。でも、やり続けるうちに、自分が俳優をする理由や、俳優とは何なのか、という問題意識のようなものが生まれてきたんです。そして「演じる」ということの本質について考えるようになりました。
自分なりに納得がいく答えはまだ見つかっていませんが、今は、俳優というのは人間が生きていることと地続きで、決して特別なものではないと考えています。誰しも、社会や所属するコミュニティの中で、何かしらの役を演じていると思うんです。
そういう自問自答を繰り返してきた自分と、「共通舞台」の演劇の作り方は、とても似ていると思います。単純に、脚本があって演出がついて、それをもとに俳優が演じるという一方向の関係性では見えてこないものが、「共通舞台」の演劇では見える気がします。

2022年9⽉ 京都学⽣演劇祭「Why theatre? Why you?」

──お二人の共同演出で出来上がった『Why theatre? Why you?』は、京都学生演劇祭でも審査員賞、TOWA賞、KYOTO EXPERIMENT賞の3部門を受賞されていましたね。次の公演についても教えてください。

村上:京都府文化団体等活動継続支援事業に選出していただき、2023年2月にTHEATRE E9 KYOTOでの公演が決定しました。演目は、私がロンドンで衝撃を受けた『ハムレット』。「共通舞台」としてはこれまでにない規模の人数の俳優が出演します。今まで通りのやり方が通用するのか、まだわかりません。でも、「共通舞台」なりの『ハムレット』に仕上げたいと思っています。

──では最後に、「共通舞台」にとっての「演劇」とは、どんな存在ですか?

村上:演劇は、自分がどう生きているかを見直す場所です。蜷川さんの「どれだけいい加減に生きていても、稽古場では正しくいよう」という言葉がとても好きで、稽古場では目の前の人と真剣に向き合おうと思っています。俳優にも、演劇で新たな役を演じるときに、日常の自分と相対化してほしい、と常々話しています。その場で演じて終わりではなく、演劇を通して自分の中で何かが変わり、自分にフィットする生き方を見つけられれば、みんながより豊かに生きられると思います。

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