インタビュー特集

「THEATRE E9 KYOTO」舞台芸術の灯火を次世代へ 文化芸術都市・京都、演劇のこれまでとこれから【その3】

京都の小劇場の閉鎖が相次いだ2017年にスタートした「THEATRE E9 KYOTO」の建設プロジェクト。建設資金を募るクラウドファンディング(CF)は全国の演劇ファンや舞台関係者の支援が寄せられ、無事に目標金額を達成することができた。しかしその直後、建設資材の高騰を背景として、さらに約1億円の費用を必要とする事態に見舞われる。どんな窮地に立たされても、劇場建設という夢を諦めることなく歩み続けた芸術監督のあごうさとしさん、テクニカルスタッフの北方こだちさん。その情熱を支えた思いとはー。
(前回の記事「THEATRE E9 KYOTO」舞台芸術の灯火を次世代へ 文化芸術都市・京都、演劇のこれまでとこれから【その2】」)

−−「THEATRE E9 KYOTO」の建設のためのクラウドファンディング(CF)が当初の建設費用として見込んでいた8500万円の目標金額を達成し、安堵していたのも束の間、今度は東京オリンピックや京都のホテル建設ラッシュの影響から資材価格が高騰し、現状の計画では1億円近い追加費用がかかると判明。プロジェクトは窮地に追い込まれます。

あごう:CFが成功した後、支援していただいた方達に集まってもらい、報告会を開きました。その場で私から「当初の予定より建設費用が1億円、多くかかることになりました」と説明しました。あの時の場が凍りついたような怖い空気は、今も忘れられません。
なんとか費用を抑えるために、劇場として必要な要素に絞って計画を見直そうと決めました。支援者の皆さんに「計画を縮小して、プロジェクトを立て直します」と約束しました。
その後、2018年の春に再び報告会を開いて、「とにかく、劇場だけは作ります。当初の計画から大きく変更になりますが、引き続きご支援をよろしくおねがいします」と、計画見直しを改めてお伝えしたんです。その時に、現在「Collabo Earth E9」というコワーキングスペースを運営している2人に出会いました。この出会いが、プロジェクトの危機を打開するきっかけになりました。

−−CFに加えて、企業スポンサーを募ることで建設資金を賄うという形を考えられたのですね。

あごう:幸いなことに、コワーキングスペース「Collabo Earth E9」が入居する話は、ほぼ即決で決まりました。私たちにとっては家賃を受け取るという形で、運営資金を増やすことができる目処が立ちました。
さらに企業スポンサーを募る中で、劇場のネーミングライツ(命名権)は、東京の「寺田倉庫」という企業に契約して頂くことが決まりました。ネーミングライツと引き換えに、建築費として2000万円、運営費として年300万円を3年間支援いただけることになったのです
「THEATRE E9 KYOTO」という名称は元々、私たちが考えていた名前です。「E9」というのは、ここ「東九条」の地域にちなみ、「East(東)」と九条の「9」から取ったものです。それがどういう名称に変わるか、少し不安もありました。
そして、いよいよネーミングライツの書類を交わす時がきました。命名の欄を見て驚きましたよ。「『THEATRE E9 KYOTO』と命名する」と書かれていたんです。寺田倉庫の方は、私たちに金銭を支払ってネーミングライツの權利を行使するけれど、名称は当初のままにしておいてくださった。これには、本当に感動しました。

−−企業スポンサーの皆さんも、あごうさんたちの情熱と志に動かされたのですね。そして、劇場を作りたいという強い思いと、それを支援しようという輪が大きく広がっていきました。

あごう:実際に取り組んでいる私たちとしても、本当に勉強になったというか、多くのことを学びました。「声を上げると、こうして応えてくれる人たちがいるんだ」ということを、プロジェクトを通して身を持って知ることができました。
全然、格好いい感じじゃないんですよ、本当に。時間もかかるし、手間暇もかかる。泥くさく続けていく中で、ものすごくストレスがかかってくる場面もあります。だから、「みんなも、上手にお金を集めてね」ということではないんですよ。お金は確かに必要ですが、それは手段でしかありませんから。

−−「お金は手段でしかない」という言葉は、実際に「THEATRE E9 KYOTOの開設」という夢を実現されたあごうさん、北方さんの口から聞くと、すごく説得力を感じます。

あごう:私が伝えたいのは、自分の中に何かやりたいことがあるとして、それが何らかの困難に直面して難しい状況に陥っている、と。そういう時に、ちゃんと声を上げると、自分たちを取り巻く状況が変わる可能性がある、ということです。
あなたの思い描いていること、あなたの夢や希望は、あなただけじゃない。必ず応援してくれる誰かがどこかにいる。それを信じることが大事だよと、これから挑戦する若い世代に伝えたいですね。

北方:「THEATRE E9 KYOTO」の開設に先駆けて、まず最初の拠点となる稽古場「studio seedbox」を作ることになりました。JR京都駅の八条口から歩いて7分ほどの場所にあるビルの3階を、稽古場として借りることになったんです。床を張り替えたり、壁を黒く塗ったりとか…。そういう、実際に作り上げていく実作業の部分で、E9の立ち上げに関わっていました。
「建設費が1億円増える」と聞いた時も、もちろん不安はありました。自分には金銭面で協力できることもなかったので、ヤキモキしていたんですけど…。ただ、当時は自分のことで一杯一杯なところがありました。まだまだ舞台の経験値もない中で、「どうやって、舞監(=舞台監督)として身を立てていくか」ということが、自分の中では大きい問題でした。
そんな時期に、あごうさんたちが奔走している姿は「希望の光」のような存在でした。自分より上の世代の、舞台の経験がある方達が諦めずに、前に進み続けている姿を見て、「自分も一緒に進めそうだな」という希望を感じていました。(続く)

あごうさとし
劇作家・演出家・THEATRE E9 KYOTO 芸術監督(一社)アーツシード京都代表理事。
「演劇の複製性」「純粋言語」を主題に、有人・無人の演劇作品を制作する。
2014〜2015年、文化庁新進芸術家海外研修制度研修員として、3カ月間、パリのジュヌヴィリエ国立演劇センターにおいて、演出・芸術監督研修を受ける。2014年9月〜2017年8月アトリエ劇研ディレクター。2017年1月、(一社)アーツシード京都を大蔵狂言方茂山あきら、美術作家やなぎみわらと立ち上げ、2019年6月にTHEATRE E9 KYOTOを設立・運営する。
同志社女子大学嘱託講師、京都市立芸術大学芸術資源研究センター客員研究員、大阪電気通信大学非常勤講師。
平成29年度京都市芸術新人賞受賞、第7回京信・地域の企業家アワード優秀賞(2020年)、令和2年度京都府文化賞奨励賞、これからの1000年を紡ぐ企業認定(2021年)、令和3年度文化庁芸術祭賞大賞(「ロミオがジュリエット」を演出)など芸術・経済の両分野での受賞多数。

北方こだち
舞台監督。1989年兵庫県生まれ。大学在学中は立命芸術劇場に所属。
2014年よりGEKKEN staffroomに参加。アトリエ劇研閉館後はTHEATRE E9 KYOTOの立ち上げに関わり、2019年よりE9 staffroomメンバー。
舞台監督として、したため、ルドルフ、ソノノチ、居留守、ブルーエゴナク、第七劇場など、演出助手として庭劇団ペニノの創作に関わる。
2020年度より京都舞台芸術協会理事。創作環境と労働の関係について考え直す企画を提案・実施。
ワークショップデザイナー育成プログラム阪大10期修了。

■THEATRE E9 KYOTO 公式HP⇨https://askyoto.or.jp/e9


sponsored by TOWA株式会社