インタビュー特集

学生が主体、公演を通して演劇学ぶ「ガクウチ」 コロナ禍の困難乗り越え、8月に公演開催

「学生の街」京都には多くの学生演劇サークルや劇団が存在し、個性が光る舞台表現に取り組んでいます。京都を代表するサブカルチャーである学生演劇の世界と、そこで活躍する学生たちにスポットを当て、知られざる学生演劇の魅力に迫る「学生演劇応援団」のインタビュー特集。第2回は、学生演劇企画「ガクウチ—学徒集えよ、打とうぜ芝居—」in E9 の実行委員の方々にお話を伺いました。
「ガクウチ」は、「公演を通した学び」がコンセプトの演劇企画。THEATRE E9 KYOTO(以下、E9)を拠点に、8月に控えた公演に向けて学生が主体となり準備を進めています。今回は実行委員長の永澤萌絵さん、演出の小倉杏水さん、E9でプログラムオフィサーを務める木元太郎さんに取材しました。

「ガクウチ」のメンバー。下段右から1人目が永澤さん、上段左から1人目が小倉さん(写真提供:ガクウチ)

──「ガクウチ」は、多数の大学の学生のみなさんが参加しています。発足の経緯を教えてください。

永澤:始まりは、E9からの依頼で京都舞台芸術協会が開催した学生へのヒアリングがきっかけでした。その場で、E9の方から「コロナ禍の影響で、演劇に携わる学生も大変なはず。何か支援ができることはないだろうか」という提案をいただきました。

──なるほど。E9としては、どういう思いで提案されたのですか?

木元:とにかく、学生演劇を守るために、民間劇場としてE9ができることをしたい、という思いがありました。それ以前から全国の小劇場運営者の間では、コロナ禍における若手への支援についてどうあるべきか、度々話題に上っていました。初期の頃は、これほど長引くとは想像していなかったので、「我々が先に手を差し伸べるよりも、学生からの自発的な声を待とう」という姿勢でした。
しかし、コロナ禍が2年以上続いたことで、メンバーが入れ替わりながら続いていくはずの学生演劇の技術や文化の継承が、止まってしまった。「もはや待っていられる状況ではない」という危機感を持ちました。
学生演劇は、演劇文化の源泉とも言える存在です。それが途絶えてしまえば、我々のような民間の小劇場にとっても、広くは舞台芸術業界全体にとっても損失となります。

──たしかに、コロナ禍で解散してしまった学生劇団も多いと聞きました。ヒアリングでは具体的にどのような意見が出たのですか?

永澤:コロナ禍での厳しい制限で、練習時間が足りない、有観客公演ができないという現状をお伝えしました。公演の機会が減っていることで、照明や音響などスタッフワークのプランニングや技術、稽古場の空気感を継承していくことが難しくなっています。
たとえば、私が所属している同志社大学の「第三劇場」では、約2年間、緊急事態宣言中は対面活動が禁止され、宣言解除後も活動時間は1人あたり2時間という制限が設けられていました。90分の長編の公演を行うには、練習時間が全く足りませんでした。仮に公演ができたとしても、入場人数の制限があるため、観客は少数の学内の関係者に限られています。私自身、先輩たちと有観客公演を経験したことがなく、とにかく一緒に演劇を作ることが難しい状況でした。

──本当に厳しい状況だったんですね。ヒアリングから、どのようにして「ガクウチ」を立ち上げる流れになったのですか?

永澤:一つの公演を参加者全員で一緒に作り、その過程で学びを得ることができる機会にしたい。そんな願いから、今回の「ガクウチ」が始動することになりました。企画が本格的にスタートする前の5月には、E9を会場として学生向けに舞台スタッフのワークショップも開催されました。E9のスタッフの方々に、私たち学生にとって一番良い形となるようサポート頂いたと感じています。

全部署総合のワークショップの様子(写真提供:THEATRE E9 KYOTO)

──舞台スタッフのワークショップでは、どのようなことに取り組んだのでしょうか?

永澤:照明、音響、大道具、舞台監督、全部署総合と、5月上旬に計5日間にわたって開催されました。私は音響、舞台監督、全部署の3日間参加しました。舞台上でのスピーカーの配置や、ミキサーの扱い方などをプロの方から直接指導してもらうことができ、貴重な経験となりました。

──プロの技術を直接教えてもらえるなんて、とても貴重な機会です。ガクウチとしての公演も、8月の本番に向けて準備が進んでいるそうですね。

小倉:はい。ガクウチの実行委員は計7人ですが、役者として出演するメンバーや演出を含めると、全体では36人の学生で準備しています。E9で8月に行う公演本番に向けて、E9と同じくアーツシード京都が運営する稽古場「スタジオシードボックス」をお借りして、6月半ばから稽古を始めました。学生同士の横のつながりもできて、ワクワクしています!

──横のつながり、嬉しいですね。公演内容についても教えてください。

小倉:別役実さんの『そよそよ族の叛乱』を選びました。ある町で、失語症の「そよそよ族」という民族の死体が空から急に落ちてきて、言語でのコミュニケーションに頼っていた町の人々がその限界を感じていく…という不条理劇です。

8月の公演に向けて、稽古に励む学生たち(写真提供:ガクウチ)

──おもしろそうですね! ガクウチでの活動を通して、気づいたことはありますか?

永澤:プロの方と接する機会があることで、技術面はもちろん、演劇への関わり方という面でも学ぶことが多いです。学生劇団に比べ、プロの劇団は部署や役職が独立していて、各部署がきちんと責任を持っているように思います。

小倉:学生劇団は演出1人が全体のことを全て決める雰囲気が強いのですが、やはりその分負担も大きいです。プロのスタッフの方々を見ると、それぞれ専門性の高い人の意見を取り入れる方が、総合的に良いものが出来上がっていくのだと気づきました。

──では最後に、8月の公演に向けて意気込みを聞かせてください!

永澤:コロナ禍で、どの劇団もそれぞれに課題を抱えてきました。有観客公演ができない、技術の継承ができない、新入団員が集まらない、先輩の数が少ない、など。「学生だから難しい」という諦めの雰囲気もあったかもしれません。でも今、そういった課題がある中でも演劇をしたい、公演を行いたいという学生が集まっているのが、ガクウチです。私たちの持っている熱量を8月の作品に込めようと思っているので、ぜひ見てもらいたいです。

小倉:8月13日と8月14日に計3回、公演予定です。チケットも発売中なので、詳しくは下記のHPをご覧ください!

学生演劇企画「ガクウチ—学徒集えよ、打とうぜ芝居—」の情報はこちら(外部リンク)

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