インタビュー特集

「THEATRE E9 KYOTO」舞台芸術の灯火を次世代へ 文化芸術都市・京都、演劇のこれまでとこれから

文化芸術都市・京都から、舞台芸術の灯火を次世代につなぎたい。京都市南区東九条にある「THEATRE E9 KYOTO」は、演劇を愛する人々のそんな願いが集まり、2019年に開館した。芸術監督のあごうさとしさん、テクニカルスタッフの北方こだちさんに聞いた、京都の演劇のこれまでとこれからについて。そして、新しい挑戦を続ける「E9」が今、演劇を志す若い世代に伝えたいこと-。

−−「THEATRE E9 KYOTO」は、クラウドファンディング(CF)を活用して作られた、いわば「市民参加型」の劇場です。E9の特徴と、設立に至る経緯を教えてください。

あごう:「THEATRE E9 KYOTO」は2019年6月22日に開館し、今年の6月で開館3年目を迎えます。建物の構成は、1階に約90席の小劇場を設け、劇場の入り口に小さなカフェがあります。階段を上がった2階がロビーで、ここには「Collabo Earth E9」というコワーキングスペースを併設しています。1階に舞台芸術のアーティストやお客さんが演劇を見に訪れ、2階にビジネスパーソンが集い、カフェではこども食堂の取り組みも開いています。そういう意味では、珍しい取り合わせの劇場と言えるかもしれません。

あごう:なぜ、E9がここ東九条にできたか、ということなのですが、2015〜2017年にかけての間に、京都市内にあったいわゆる「小劇場」と呼ばれる5つの演劇の拠点が、相次いで閉館するという事態に見舞われたんです。閉館の主な理由は、土地・建物のオーナーの高齢化、または建物の老朽化でした。
私はそのうちのひとつである「アトリエ劇研」で閉館までの最後の3年間、ディレクターを務めていました。たまたまその時期に、オーナーさんから「もう閉めたい」という意向を伝えられました。この状況を放置すれば、いわゆる小劇場として機能している劇場がロームシアター(左京区)のノースホールのみになってしまう可能性があった。さすがにそれは具合が悪いと思ったことが、そもそものきっかけでした。

−−相次ぐ小劇場の閉館で、京都の舞台芸術が危機的状況になったんですね。

あごう:その通りです。5つの小劇場が消失してしまうと、年間にして100〜150ほどの演目が上演できなくなる。これは同時に、年間3〜4万人の観客が、演劇を見る機会を奪われることを意味します。仮にそのような状況になってしまうと、とりわけ若い人たちが舞台芸術に参画できる環境が激的に失われると、強い危機感を抱きました。
国内の地方都市の中でも京都は、舞台芸術を含めてアートの活動が非常に盛んな都市です。さまざまな分野で芸術作品を生み出し、芸術文化都市としての中身を形作っています。それが、小劇場の相次ぐ閉館によって、舞台芸術の分野においては活動を維持するそもそもの土台がなくなってしまうかもしれない。私たちはこのことをひとつの社会問題として掲げ、演劇や舞台芸術の関係者で構成する「一般社団法人 アーツシード京都」を設立し、新しい劇場を作ろうと動き始めました。

−−なるほど。小劇場の閉鎖は、これまで京都の舞台芸術を支えてきた「文化の根」とでも言うべき環境が失われることでもある。あごうさんが提起した呼びかけを契機として、京都のみならず全国から注目が集まることになったのですね。

あごう:「アーツシード京都」のメンバーの中では一番若い私が、代表理事になりました。そして、世間の皆さんに「京都の舞台芸術の文化が危機的状況に瀕している」ということを訴え、「舞台芸術を未来へつなぐため、ご支援いただけませんか」と、記者会見を開いて呼びかけた。2017年6月26日、アトリエ劇研が閉館する2カ月前です。市民の方や、舞台芸術をはじめとする芸術関係者など合わせて80人ほどに集まっていただき、新聞やテレビなどメディアにも取り上げられました。そして、クラウドファンディング(CF)を活用した「THEATRE E9 KYOTO」の建設プロジェクトが始まったんです。

2017年6月26日に「アーツシード京都」が開いた記者会見。ここから「THEATRE E9 KYOTO」の計画が始まった (写真=京都新聞)

北方:私は、あごうさんがディレクターに就任した2014年に、アトリエ劇研の舞台技術のメンバーが所属する「スタッフルーム」に入りました。
学生時代に「立命芸術劇場」に在籍し、そこから学生演劇に関わるようになりました。大学卒業後、舞台監督を志し模索していた時期に、「『アトリエ劇研』というのがあるらしい。そこには、どうやらスタッフの集団(GEKKEN staffroom)があるらしい」という情報を知りました。でも、関係者を誰も知らなかったんです。
そこで、とりあえずアトリエ劇研が開いているプログラムを覗いてみようと、俳優向けのワークショップに参加しました。そこでつながったスタッフの方に「舞台監督になりたいです」と希望を伝えたら、ちゃんと話を聞いてもらえて。「じゃあ、入りなよ」と言われたのがスタートです。26歳の時でした。

−−あごうさんと北方さんは、アトリエ劇研の最後の時期を、ともに過ごされていたんですね。

北方:私は本当に、舞台の経験が何もなかったんです。四条烏丸の喫茶店で、GEKKEN staffroomに入るための面談を先輩スタッフとしたのですが、「何ができますか?」と聞かれて、「何もできません」と答えるしかない、みたいな感じで。だけど、「一緒にやりましょうか」と言っていただいて、右も左も分からないまま受け入れていただいたんです。
アトリエ劇研では毎週のように公演があったので、そう意味では毎週現場があるという感じでした。ちょうど当時、若手の劇団が上演プログラムの中に10団体くらい入っていました。(当時)私と同世代、20代後半くらいのメンバーが大半だったので、「同世代の舞監(舞台監督)さん、誰かいませんか?」ということで白羽の矢が立って、舞台監督として経験を積む機会を与えていただきました。
そうこうしているうちに「劇研が閉まる」という話が出てきて。「よし、これから舞監としての経験を積むぞ」と思っていたら、劇場そのものがなくなると聞かされ、「劇場って、なくなるものなんですか?」みたいな感じで、それはすごい衝撃的でしたね。

−−そこから、あごうさんと一緒にE9のプロジェクトに加わられたんですか?

北方:アトリエ劇研の「スタッフルーム」という集団に対して、あごうさんから「次、新しい劇場を作ろうと思うんだけど、協力してくれませんか?」ということが周知されて、私はすぐに「やリます。何ができるかわかりませんが」みたいな感じで手を挙げました。そこから、E9の立ち上げに関わるようになりました。
始めのうちは「本当に新しい劇場なんてできるのかな」という不安もあったんです。でも、あごうさんたちが走り回っている姿を見て、それが希望でしたね。自分より経験のある上の世代の方々が、前を向いて走っている。その様子を見て、なんだか分からないけど「道を作ってくれている」と感じて、この道を一緒に進めそうだな、という希望を持つようになりました。(続く)

あごうさとし
劇作家・演出家・THEATRE E9 KYOTO 芸術監督(一社)アーツシード京都代表理事。
「演劇の複製性」「純粋言語」を主題に、有人・無人の演劇作品を制作する。
2014〜2015年、文化庁新進芸術家海外研修制度研修員として、3カ月間、パリのジュヌヴィリエ国立演劇センターにおいて、演出・芸術監督研修を受ける。2014年9月〜2017年8月アトリエ劇研ディレクター。2017年1月、(一社)アーツシード京都を大蔵狂言方茂山あきら、美術作家やなぎみわらと立ち上げ、2019年6月にTHEATRE E9 KYOTOを設立・運営する。
同志社女子大学嘱託講師、京都市立芸術大学芸術資源研究センター客員研究員、大阪電気通信大学非常勤講師。
平成29年度京都市芸術新人賞受賞、第7回京信・地域の企業家アワード優秀賞(2020年)、令和2年度京都府文化賞奨励賞、これからの1000年を紡ぐ企業認定(2021年)、令和3年度文化庁芸術祭賞大賞(「ロミオがジュリエット」を演出)など芸術・経済の両分野での受賞多数。

北方こだち
舞台監督。1989年兵庫県生まれ。大学在学中は立命芸術劇場に所属。
2014年よりGEKKEN staffroomに参加。アトリエ劇研閉館後はTHEATRE E9 KYOTOの立ち上げに関わり、2019年よりE9 staffroomメンバー。
舞台監督として、したため、ルドルフ、ソノノチ、居留守、ブルーエゴナク、第七劇場など、演出助手として庭劇団ペニノの創作に関わる。
2020年度より京都舞台芸術協会理事。創作環境と労働の関係について考え直す企画を提案・実施。
ワークショップデザイナー育成プログラム阪大10期修了。

■THEATRE E9 KYOTO 公式HP⇨https://askyoto.or.jp/e9


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