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「実験的な舞台芸術」とは? 京都学生演劇祭のレクチャー企画「劇特講」の第二回が開催

今年も京都学生演劇祭が始動している。京都府内の学生劇団、全6団体がエントリーし、U30枠として若手劇団3団体も参加するなど、盛り上がりを見せている。また、今年からの新企画として、「劇特講」がスタート。演劇祭の参加団体のメンバーを対象に、第一線で活躍するプロの演劇人によるレクチャーやワークショップが実施されている。
今回の記事では、7月に実施された「劇特講」第二回の様子をレポートする。講師はKYOTO EXPERIMENTのディレクターを務めるジュリエット・礼子・ナップさんと、塚原悠也さん。「実験的な舞台芸術とは何か?」というテーマで、講義が行われた。

 

 

■「演劇の条件」とは何か

今回はレクチャーという一方的な形ではなく、双方向的なコミュニケーションの形にしたい、という塚原さん。講師陣の自己紹介を終えると、参加者にも自己紹介を求めた。
早速塚原さんから、「演劇になくてはならない条件とは何だろう?」という質問。観客、俳優、上演場所、企画書……と、様々な回答が挙がると、「じゃあ、人間ではなく木を観客とした演劇は成り立つだろうか。俳優が一人も出てこない演劇は?」と問いかける。
観客や俳優が存在しない場合に、それを演劇と呼べるだろうか。禅問答のような問いに、頭を悩ませる参加者たち。塚原さんは、「我々は普段、どういうものを演劇と呼んでいるだろうか。ジャンルの幅から出たら演劇ではなくなってしまうのだろうか」と、それぞれが持っている先入観や固定観念を、いったん取り払って考えることを求めた。

講師を務めたジュリエット・礼子・ナップさん(右)と、塚原悠也さん(左)
■次の世代として、新しい価値観を提示すること

話題は、今回の劇特講のメインテーマである「実験的な舞台芸術とは何か」という問いに。自分の中にある先入観を捨てた上で、どのようにして「実験」に足を踏み出せば良いのだろうか。
塚原さんは、「上の世代の人が作った環境や業界の慣習が、そのジャンルの枠を狭めてしまうことは多くある。それによる良い面もあるけど、次の時代をつくる若い世代の立場としては、上の世代の人たちの表現や考え方を知った上で、新しい価値観を提示することが大事。知らずに作ってしまうと、進歩せずに同じことを繰り返してしまう」と、作品の創作をはじめる前に、既存の作品や表現に触れることの大切さを語った。
続いてジュリエットさんから、過去のKYOTO EXPERIMENTの中で上演された作品が紹介された。舞台は駐車場、車のトラックが演じるという形式の演劇、地域調査の成果発表会としての演劇など、既存の枠にとらわれない作品の数々は、まさに前半で問われた「演劇の条件」を揺さぶるようなものばかり。「実験」を名前に冠するKYOTO EXPERIMENTのディレクターならではの、実験的な作品の紹介によって、学生たちの演劇の捉え方は、大きく広がったに違いない。

■新しい表現を生み出すために

先入観を捨て、先人たちの表現に触れる。その上で、主流とされている流れとは異なるチャレンジをすれば、当然、批判を受けることもあるだろう。創作者として、そうした批判と、どのように向き合えばよいのだろうか。塚原さんは、自身の経験も踏まえて学生たちの背中を押す。
「新しいことをすれば、必ず『これは〇〇じゃない』と言われることがある。でも、お客さんの中にある価値観を大きく超えることでしか、新しい形は生まれない。仮説を立てて、実験して……という繰り返しは、新しいものを生み出すための挑戦の過程。いくら批判されようが、『上演した』という事実は否定できないのだから、批判を恐れず、まずはやってみてほしい」。
講師の塚原さんが所属するcontact Gonzoの活動は、演劇にもダンスにも分類し難い。観客から、「アートではない」「演劇ではない」といった批判を受けることもあるが、そうした批判は、新しい表現を生み出すために必要なものだという。たとえその一回の挑戦が成功しなかったとしても、長い目で見た大きな挑戦の「糧」となるのだ。

先入観を捨てて、先人たちの表現に触れた上で、新しい価値観を提示するようなチャレンジをする——。KYOTO EXPERIMENTを通じて、京都の地で様々な「実験」に立ち会ってきたお二人のお話は、学生を大いに勇気づけただろう。
この秋生まれる学生たちの新たな「実験」を、楽しみにしたい。
(取材/執筆:久野泰輝)

■講師経歴(敬称略)

ジュリエット・礼子・ナップ
KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター。京都・京都芸術センター、静岡・SPAC静岡県舞台芸術センターでインターンやボランティアとして活動したのち、Ryoji Ikeda Studio Kyotoでコミュニケーションマネージャー、音楽及びパフォーマンスのプロジェクトマネジャーを担当。2017年から「KYOTO EXPERIMENT」に所属し、広報とプログラムディレクターのアシスタントを務める。

塚原 悠也
KYOTO EXPERIMENT共同ディレクター、アーティスト、京都市立芸術大学彫刻科非常勤講師。2002年にNPO DANCEBOXにボランティア、運営スタッフとして参加したのち、2006年にパフォーマンス集団contact Gonzoの活動を開始。2020年に、セノグラフィと振付を手がけた「プラータナー:憑依のポートレート」(岡田利規演出)で読売演劇大賞の優秀スタッフ賞を受賞。

【京都学生演劇祭の詳細】

➤参加団体〈学生劇団〉(学校名)※五十音順
〇青コン企画(仮)(同志社大学 等)
〇演劇ユニット日光浴(京都橘大学 等)
〇劇団透明少女(同志社大学)
〇劇団フォークロア(関西大学)
〇ひゅーまんシアター(総合学園ヒューマンアカデミー京都校)
〇らせんの目(京都芸術大学)

➤U30参加団体 ※五十音順
〇後付け
〇劇団FAX
〇ヨルノサンポ団

★開催日程
2023年9月9日(土)~16日(土)
※12日(火)は休演日、16日(土)は授賞式

詳細はこちらから(外部リンク)→
https://kstfes.wixsite.com/home


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