ニュース

演劇を社会に広げる「アートマネジメント」の考え方とは? 京都学生演劇祭のレクチャー企画「劇特講」が始動

今年も京都学生演劇祭が始まった。京都府内の学生劇団、全6団体がエントリーし、U30枠として若手劇団3団体も参加するなど、盛り上がりを見せている。また、今年新たに始まった企画として、「劇特講」がスタート。演劇祭の参加団体のメンバーを対象に、第一線で活躍するプロの演劇人によるレクチャーやワークショップが実施されている。今回の記事では、6月に実施された「劇特講」初回の様子をレポートする。初回の講師はTHEATRE E9 KYOTOの支配人を務める蔭山陽太さん。「いい制作者になるための5つの方法 〜アートマネジメントとはなにか〜」というテーマで、演劇に欠かすことのできない「制作」の仕事について、学生たちに語った。

THEATRE E9 KYOTOの支配人を務める蔭山陽太さん
■蔭山さんの経歴について

大学時代も含めて演劇にはほとんど関わったことが無かったという蔭山さん。舞台芸術は全くの未経験だった25歳のときに俳優座劇場の制作として、演劇業界でのキャリアを歩み出す。
その後、劇団文学座に入り、全国ツアー講演に制作として帯同するなど、舞台の裏方としての実績を着実に身につけた。まつもと市民芸術館、KAAT神奈川芸術劇場、ロームシアター京都など、名だたる劇場の支配人を務めたのち、2019年からTHEATRE E9 KYOTOの立ち上げに携わり、現在に至る。
長きにわたって、劇団の広報、公演の宣伝やプロデュースなどを務める「制作」という立場で演劇と関わってきた蔭山さん。だからこそ、作品の創作に閉じこもるのではなく、「演劇を社会にどう開くか」という視点を大切にしてきた。今回の劇特講では、豊富な経験を持つ蔭山さんの視点から、”いい制作者”になるために重要な「アートマネージメント」という考え方について、レクチャーが行われた。

蔭山さんが立ち上げから携わり、現在も支配人を務めるTHEATRE E9 KYOTO
■「アートマネジメント」とは?

”雑務全般”といったイメージもついてしまっている制作の仕事。だが、蔭山さんは「これからの演劇創作の現場では、より広い『アートマネジメント』という考え方で、制作の役割を捉えるべきだ」と語る。
そもそも「アートマネジメント」という概念は、1970年代にアメリカで生まれた。演劇に限らず、さまざまなアートの分野で用いられる言葉で、「芸術に関わる事業やプロジェクトの運営、組織、財政を管理し統括すること」などと定義される。ビジネス領域の「マネジメント」の知見や概念を、演劇も含めたアートの分野にも取り入れよう、という考え方だ。複数人で協力しながら、一つのプロジェクトの達成に向けて活動する、という意味では、アートもビジネスも共通する部分がある。
蔭山さんは、アートマネジメントに必要な要素として、大きく5つを挙げた。

① 企画立案、開発
② 財政管理
③ マーケティング・広報
④ 人事管理
⑤ ネットワーキング(異業種交流)

特に蔭山さんが力を入れて語ったのは、「ネットワーキング(異業種交流)」の重要性について。「演劇は見てくれるお客さんがいて初めて成立するもの。演劇を見てくれる人を増やすためには、演劇以外の分野の人に興味を持ってもらう必要がある。また、演劇業界ではお金の話がタブー視されがちだが、タブー視する必要は全くない。価値がわかりにくい演劇だからこそ、安売りせず、自信を持ってその価値を伝えることが重要」。アートマネージャーの役割として、一つ一つの公演のクオリティを上げるだけでなく、持続的に創作を行うことができる環境を整えることが必要となる。二の次と軽視されがちな資金面も含めた広い視野で演劇を捉え、演劇の業界の外に開いていくことの重要性を語った。

■学生からの質疑応答

当日の劇特講の最後のセクションでは、学生からの質問も受け付けた。
「今は学生で、サークルなどで人脈作りができている部分もあるが、社会人になったら、どのように新しい人との繋がりを作れば良いのか?」。学生からの質問に、蔭山さんは「”会社人”ではなく、”社会人”になるという意識を持つべき。自分の所属する会社やサークルに閉じこもるのではなく、ご飯を食べに行ったり、どこかへ遊びに行ったりするなどして、所属している組織の”外”の人と出会うきっかけを作ることが大切。そこで演劇に馴染みのない人に、演劇を作っていることを伝えてみると、案外面白がられるもの。どんどん外に出て、自分の活動をアピールしていこう。」と答えた。

京都学生演劇祭に出場する団体は、いずれも創作への熱意が高い。その分、学生から社会人になっていく過程で、どのように創作を続けていくべきなのか、悩んでいる学生も多いのだろう。どの学生も、今回のレクチャーを前のめりで聞いていたのが印象的だった。今後、劇特講のレクチャーを受けた学生たちの中から、演劇の枠を広げる、どんな新しい動きがでてくるのか楽しみだ。

【京都学生演劇祭の詳細】

➤参加団体〈学生劇団〉(学校名)※五十音順
〇青コン企画(仮)(同志社大学 等)
〇演劇ユニット日光浴(京都橘大学 等)
〇劇団透明少女(同志社大学)
〇劇団フォークロア(関西大学)
〇ひゅーまんシアター(総合学園ヒューマンアカデミー京都校)
〇らせんの目(京都芸術大学)

➤U30参加団体 ※五十音順
〇後付け
〇劇団FAX
〇ヨルノサンポ団

★開催日程
2023年9月9日(土)~16日(土)
※12日(火)は休演日、16日(土)は授賞式

詳細はこちらから(外部リンク)→
https://kstfes.wixsite.com/home


sponsored by TOWA株式会社