
京都発の気鋭劇団「安住の地」、異分野とのコラボレーションで挑む演劇の新たな地平【vol.2】
演劇を軸としながら、音楽や写真、ファッションなど多様なカルチャーとコラボレーションした作品を生み出している劇団/アーティストグループ「安住の地」。2017年7月の旗揚げ以来、京都を拠点としながら東京や国内地方都市、海外公演まで多彩な挑戦を続けている。2022年には、第12回せんがわ劇場演劇コンクールオーディエンス賞、第29回OMS戯曲賞佳作にも選ばれ、今、大きな注目を集める気鋭の劇団だ。代表の中村彩乃さんに、俳優として演劇にかける思いと、これからの展望について聞いた。【2回連載の2回目】
(前回の記事→京都発の気鋭劇団「安住の地」、異分野とのコラボレーションで挑む演劇の新たな地平【vol.1】)
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──中村さんが「安住の地」を立ち上げられた頃のお話を、もう少し掘り下げて伺いたいと思います。劇団設立の経緯を教えてください。
「安住の地」のメンバーは、立命館大学の学生演劇「西一風(しゃあいっぷう)」で活動していた人が多く、歴代の座長や副代表を務めていたメンバーが、「安住の地」に入ってくれています。私が劇団を作る時に、演劇の先輩など色々な人にアドバイスをもらいました。中でもよく言われたのが「(劇団の)代表と、演出家と、制作は、それぞれ分けた方がいい」ということ。つまり、「『劇団を運営するためのお金の関係でこうしたい』という人、『作品をこうしたい』という人、『劇団をこうしたい』っていう人は、よく喧嘩をした方がいい」と。
確かに、1つの頭で劇団に関係する全部を考えるとなれば、どれかに偏りがち。そこは分けた方がいいなと思いました。なので「安住の地」は、三権分立のかたちに近いかと。私が代表をして、制作と演出家はそれぞれ別にいます。これは「劇団や作品について考えるための頭を分ける」という意味合いが大きいです。
頭が3つあるので、作品づくりにあたっては必然的に「対話すること」が大切になってきます。どんなことでも否定しないで、まずは1回、相手の考え方を受け入れる。それは、劇団員みんなが共通してもっている姿勢だと思います。
ジャンルや役割の違う方の意見であっても、一度その考えを受け入れてみる。そこから、「なんで、そう考えるんだろう」ということを理解していく。自分以外の価値観や考え方を否定せずに受け止めて、そこから対話を始めていく。それが大切だと考えています。
相手を理解する考え方は、役者の役作りにも役立つと思います。「安住の地」は、演劇の枠に固執しない、相互理解を大切にする団体、というふうに続けていきたいと思っています。
──対話を大切にされているからこそ、多様なジャンルの方たちとのコラボレーションが生まれ、また「安住の地」の新たな表現が実現するのですね。演劇を続けながら他の仕事もなさっていますが、そこから演劇について考えることもありますか?
確かに、演劇だけでは、なかなか食べていけませんので、過去様々な仕事もしました。新卒で入社したホテルを辞め、「安住の地」を立ち上げ、「さて何で生活しようか」と考えた時、演劇の先輩から助言を受けました。「技術職だと、比較的、演劇に時間が取りやすい。たとえばカメラマンとか…」。それがきっかけで、未経験ですがカメラマンの仕事を始めることにしました。現在は、立命館中高の演劇部の顧問のお仕事を頂いており、有難いことに少しずつ収入の軸が演劇にむいていっています。
そうやって、他の仕事をしながら俳優をする中で、改めて演劇との違いに気づくこともありました。最近は、「演劇の価値や特性」について、よく考えるようになりました。たとえばカメラマンであれば、作品をいつでもどこでも見せることが可能ですよね。でも演劇の場合は「私は役者をやっていて、いろんな役ができます」と言っても、それを形にしづらいです。つまり、演劇は形にしにくいし、価値も見せづらいんです。ではどうしたら「演劇の価値」を示せるのでしょう。
2年前、静岡に3カ月ほど滞在して演劇を作るという取り組みに参加しました。そこでは俳優さんや劇場が、地域や学校でのワークショップをはじめ、積極的にアウトリーチされていることにとても刺激を受けました。
京都や大阪、神戸などでは、演劇文化が確立されている分、観に来られるお客さんに甘えている部分があるのかもしれません。静岡での経験から「自分たちは演劇という格好いいことをしてる」と、自己満足してるだけではダメだ、と改めて思いました。
もっと積極的に地域の人たちにコミットし、開かれた活動を継続していけば、演劇のおもしろさ、価値を社会に共有できるんじゃないか、と思っています。
──最後に、学生さんに向けたメッセージをお願いします。
学生の頃、演劇について思いきり悩みました。その時、先輩方に親身になってもらい、色々なことを教わりました。「こんなに良い先輩方と出会えて、本当にありがたい」と思いつつ、一方で「後輩の私のために時間を取られて、迷惑じゃないかな」と思っていたんですね。だけど、自分が学生の皆さんよりちょっと年上になった今、「先輩たちは、後輩が可愛いんやな」ということをひしひしと感じています。
だから、学生劇団で活動している皆さんも、年上の先輩たちに気を遣ったり、変に遠慮したりせずに、自分からグイグイ行った方が絶対にいい。経験のある先輩たちを、良い意味で利用して欲しいと思います。
新型コロナ禍では、学生劇団として活動できる貴重な時間が潰れてしまい、学生さんたちの落ち込みは計り知れないものがあると思います。私自身も先輩たちに色々助けてもらったので、後輩のみなさんにできることがもしあればしたいと思います。
演劇をこれからどうやって続けて行こうか。悩んでいた学生時代、私は「東京に行くしかない」と思っていました。その決心ができるかどうかだ、と。でも、その時に「劇団飛び道具」の先輩から「自分の担保は、他者評価でなく、自分で取れるようにしないとだめだよ」と言われたんですね。その言葉を聞いて、はっとしました。
役者として売れることや、人気の劇団に出演できること、著名な人に認められることをよしとして、自分の生き方を評価していたら、それが無くなった時に落ち込むし、演劇をやっている意味が分からなくなってしまうーー。そう気付いたんです。
「なぜ、自分が俳優をやりたいか」ということを、自分で評価しながら演劇をやること。「自分で、自分の担保を取れ」という言葉の意味は、きっとそういうことなんだと思います。
今は東京だけじゃなく、長野や静岡、鳥取、九州などのいろいろな地域の劇場が、とても活発に演劇に取り組んでいます。俳優はテレビに出るのがゴールと思われがちですが、どこに居ても自分の仕事に満足できていれば、それが正解なんだと思います。演劇を志している若い人たちには、そのことを伝えたいと思います。
中村彩乃
Ayano Nakamura
代表・俳優・ワークショップデザイナー
安住の地代表。俳優。
1994年、奈良県生まれ。舞台俳優。
2017年に自身の劇団「安住の地」を旗揚げ。以降、代表を務めながら、主に俳優として活動。
国内15都市、海外(ドイツ・イギリス)と幅広い地域での出演経歴を持つ。
京都女子大学教育学部を卒業、また同時に小学校教諭一種免許状取得。
俳優のワークショップ、高校生・中学生・小学生のワークショップ、大学での特別講義など、指導育成に関わる活動も行っている。
大阪府立東住吉高等学校 舞台芸術科 特別非常勤講師(2022-)
立命館中学校・高等学校(京都府長岡京市) 演劇部顧問(2022-)
所属劇団のほかに、コトリ会議『セミの空の空』(第27回OMS戯曲賞受賞)、SPAC『忠臣蔵2021』、下鴨車窓『微熱ガーデン』、匣の階『パノラマビールの夜』、エイチエムピー・シアターカンパニー『阿部定の犬』など、他劇団へも多数出演。
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