
京都発の気鋭劇団「安住の地」、異分野とのコラボレーションで挑む演劇の新たな地平【vol.1】
演劇を軸としながら、音楽や写真、ファッションなど多様なカルチャーとコラボレーションした作品を生み出している劇団/アーティストグループ「安住の地」。2017年7月の旗揚げ以来、京都を拠点としながら東京や国内地方都市、海外公演まで多彩な挑戦を続けている。2022年には、第12回せんがわ劇場演劇コンクールオーディエンス賞、第29回OMS戯曲賞佳作にも選ばれ、今、大きな注目を集める気鋭の劇団だ。代表の中村彩乃さんに、俳優として演劇にかける思いと、これからの展望について聞いた。【2回連載の1回目】
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──中村さんも、学生演劇の出身だとお聞きしました。演劇を始められたきっかけを教えてください。
私は奈良県の出身で、京都女子大学に入学して京都に来ました。高校生の頃から劇団四季の舞台などを観るのは好きでしたが、自分が演劇をやるとは全く思っていませんでした。小劇場という存在も知らなかったくらいで、1回生の時は軽音サークルに入っていました。
京都女子大学で活動していた「S.F.P.(エスエフピー)」という学生劇団の公演を、たまたま観る機会があり、「こんなに小さい演劇があるんだ」と知ったのがきっかけですね。そこから「演劇、やってみようかな」という感じで、大学2回生から演劇を始めました。
S.F.P.は、自分たちで脚本を作り、主に会話劇に取り組んでいました。活動はすごく楽しかったのですが、女子大学なのでメンバーが女性しかいなかったんですね。S.F.P.で活動する中で、自分としても演劇に対して本格的に興味が出てきたこともあって、3回生からは社会人劇団のオーディションを受けて、大学の外で活動するようになりました。
現在も所属している「劇団飛び道具」をはじめ、「エイチエムピー・シアターカンパニー」や「階」、私と同い年の京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)の学生が代表をしていた「ルサンチカ」などの劇団に、役者として出させていただいていました。
──大学卒業後も演劇を続けることは、早くから決めていたのですか?
卒業後の将来については、本当にすごく悩みました。「演劇を続けたいけれど、それで食べていけるものじゃないし…」という感じですね。
私は教育学部だったので、実は小学校の教員免許を持っているんです。3回生の頃は芝居をしながら、並行して教職の勉強を続け、小学校に教育実習にも行きました。
教育に興味はあったのですが、「教師として徹底して生徒と向き合える志が自分にあるのか」と考えた時に、ちょっと生ぬるいかもしれないと思いました。また、「主にスケジュールの面で、
入社を控えた大学4回生の3月に、「劇団飛び道具」の舞台に出演したことが、ひとつの転機となりました。「劇団飛び道具」は立命館大学の学生演劇OBの藤原大介さんが座長を務め、それぞれ別に仕事を持ちながら、年1回の公演を行なっている社会人劇団です。そのやり方がすごくいいなと感じ、また、自分としてもどこか帰るところが欲しいなという思いもあり、正式に「劇団飛び道具」に加入することにしたんです。
──大学卒業を控えた時期に、演劇を通した新しい出会いや、心境の変化があったのですね。
最初は、ホテルの仕事をしながら演劇に関わっていこうと考えていました。ところが、入社直後からブライダル課に配属になり、基本、演劇上演がある土日は休めない。
さらに、その年の春ごろにアトリエ劇研という京都の小劇場が「来年で閉館する」という知らせが出て、かなり衝撃を受けました。
一方で、「劇団飛び道具」は私より20歳も年上の、50代の方たちが中心。ある時、先輩の俳優さんがご病気になられたことがあり、治られたときに、ふと先輩方は先に亡くなられてしまう、という当たり前のことに気づいたんですね。
先輩だけに頼らず、自分たちの代でも演劇をやっていきたい。そのためには横のつながりをきちんと作っていくことが必要だと、強く感じました。
それで、ホテルに入社した3カ月後の7月に、思い切って自分の劇団を旗揚げすることに決めました。旗揚げ公演の準備と、ホテルを退職する準備。1年かけて両方を進めました。
当初は、作家の子と2人で動き始め、1年の間に仲間が増えて6人になりました。そして、旗揚げ公演は2017年7月。アトリエ劇研で「安住の地」が誕生しました。劇団名は劇団名は「安住できる場所なんてなかなかないけれども、自分たちで安住の地を探していこう」という思いを込めました。
今年で7年目を迎え、劇団員は13人に増えました。公演によっても変わりますが、京都芸術センターや青少年活動センターを借り、週に2、3回は稽古しています。演劇という枠組みにとらわれずに、色々な表現分野の方々と一緒に作品を作りたい。そんな思いを大切にしています。(続く)
中村彩乃
Ayano Nakamura
代表・俳優・ワークショップデザイナー
安住の地代表。俳優。
1994年、奈良県生まれ。舞台俳優。
2017年に自身の劇団「安住の地」を旗揚げ。以降、代表を務めながら、主に俳優として活動。
国内15都市、海外(ドイツ・イギリス)と幅広い地域での出演経歴を持つ。
京都女子大学教育学部を卒業、また同時に小学校教諭一種免許状取得。
俳優のワークショップ、高校生・中学生・小学生のワークショップ、大学での特別講義など、指導育成に関わる活動も行っている。
大阪府立東住吉高等学校 舞台芸術科 特別非常勤講師(2022-)
立命館中学校・高等学校(京都府長岡京市) 演劇部顧問(2022-)
所属劇団のほかに、コトリ会議『セミの空の空』(第27回OMS戯曲賞受賞)、SPAC『忠臣蔵2021』、下鴨車窓『微熱ガーデン』、匣の階『パノラマビールの夜』、エイチエムピー・シアターカンパニー『阿部定の犬』など、他劇団へも多数出演。
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